魅力あふれる空間を訪ねる旅のスタイルが今、注目を浴びています。単に「かわいい」を求めるのではなく、地元の文化や情緒をもいっしょに感じられる空間が、その対象です。古い家が建ち並ぶ路地にスポットを当て、そこをキラキラ輝く場所へと変貌させた「再生の文化空間」をご紹介します。その場所にいるだけで、「ヒップな」雰囲気が味わえる釜山の「再生の文化空間」へ、行ってみましょう!
望美洞B-ConGround
何となく薄気味悪いようにも感じられた、暗い高架道路の下。せいぜい住民が駐車場として利用するのが関の山だった場所を、文化・ショッピング・遊びが融合した空間へとドラマチックに変貌させた。「上手な空間の使い道」とは、こういうときに使うためにある言葉だったのだ。
釜山(Busan)から「B」を、コンテナから「CON」を取ってつけられたその名からも分かるように、B-ConGroundは、180もの「コンテナ」でつくられている。「コンテナ」は、港の街・釜山のシンボルでもあるからだ。
釜山の都心に伸びる都市高速道路の下、そこに広がる空き地に色とりどりのコンテナ群が800mも続く。まるでレゴを組み立てたようなコンテナが、高架道路の下を一面埋め尽くしているその壮観に、誰もが足を止める。そして、探し絵の遊びをしているような気分で「ヒップな」場所を見つけたら、一日中シャッターを切り続けたくなる。
好奇心に駆られてコンテナの森の中へ足を踏み入れると、驚くべき世界が待っている。アート作品の展覧会や文化体験イベントなどが開かれるアートギャラリーやカフェ、レストラン、ショップが集まるショッピンググラウンド、屋外の遊び空間であるプレイグラウンドなどが次々と現れるのだ。望美十字路をわたった先にまで足を運ぶと、住民たちの集いの空間である「コミュニティグラウンド」、障害を持つアーティストの創作空間であるファミリーデッキがある。
使い道がないように思われていた高架下の空間が、このように複合文化空間として生まれ変わったことで、街の雰囲気までも一変した。プレイグラウンド周辺にある古い自動車整備工場と銭湯。日本の下町をそのまま移してきたようなレストランや貸本屋など。これからInstagramのユーザーたちにとって聖地になることは想像に難くない。
海雲台大林マンション
知らないと、単なるマンションにしか見えない。三ツ星ホテルや高級輸入車の展示場がずらりと並ぶ海雲台の海辺に位置する一棟のマンション。土色のタイルと外観、木の札がその長い歴史を物語っている。その名は、「大林マンション」。老朽化した「マンション」に関心を持つ人は多くないだろう。観光客ならなおのこと。なのに、人が次々と吸い込まれるように入っていく。それに彼らは、決まってスマートフォンを片手に持ったままだ。
目を引く看板も、案内板もない「大林マンション」が、今ホットスポットになっている。昔と変わらず人が住んでいるマンションの一角に、おしゃれなショップが入っているからだ。昔の雰囲気をそのまま活かした廊下や階段を通り、隠れた店を探し出すのには、何とも言えない楽しさがある。喩えるなら、記憶を辿って昔の友達の家を訪ねる気分といおうか。家と家の間に商業施設を配置するというその発想力がすごい。それを目指して行かないと、見落としてしまう場所だからなおのこと魅力的だ。
香りを視覚化しようとする試みが引き立つボディケア&コスメティック・ブランド「ノンフィクション」のショールームが二つオープンした。一カ所は店員が常駐しているが、もう一カ所は無人として運営されている。古い廊下を通り、ショールームへ入ると、まるでテレポーテーションしたように、別世界が広がる。今私たちが住んでいるこの世界とは思えないほど、感覚的で洗練された雰囲気で内部に装飾が施されている。ガラス張りの窓の前に、ミントカラーの椅子が置かれている隅の席がとくに目を奪う。この頃よく言われる「Instagram的な感性」というべきか。
レディースファッションブランド「ユノイア(eunoia)」と、地元のデザイナーブランドのポップアップ・ストア。タルト専門店の「タルトフーリガン」のようなショップも、マンションの各フロアにある。建物の内部は同じ形のはずなのに、ショップによって全く雰囲気が異なる。それぞれ個性を生かした内部のデザインを比較してみるのも、大林マンションの醍醐味の一つだ。物を売るより、経験を提供し共感を得ることへシフトしているこの頃の消費トレンドを、如実に反映している。
影島AREA6
韓国ではじめて西洋式造船所を取り入れた影島。その後、人と金が流入し、繁栄を極めたが、造船業が衰退すると、このまちも同じく転落の一途を辿った 。釜山の中心が藍浦洞から海雲台へと移り、影山はますます廃れて行った。釜山の辺境と思われた影島の再建には、サムジン練り物の力が大きい。1953年から釜山で練り物を作ってきたサムジン練り物が、練り物の体験館・歴史館を建てて観光客を集めるようになったのがきっかけで、影島にスポットライトが当てられたのだ。
そのサムジン練り物が、影島復活プロジェクトをもう一つ手掛けた。サムジン練り物本店のすぐ隣にオープンした複合文化施設「AREA6」がその正体だ。匠を意味するアーティジャン(ARTISAN)のAと再生の意味を持つRE、路地を意味するAVENUEのAを組み合わせてできた造語だ。6は、この建物が建てられる前にあった6軒の家を意味するとともに、すぐ隣にある蓬莱市場が閉店する夕方の6時の意味も含まれている。6時以降も明かりをつけて人々を集めるという意味が込められた数字だ。その名の通り、AREA6は、この地域を守り続けてきたブランドや商品、そして職人である「アーティジャン」たちが、夜遅くまで明かりをつけて地域おこしのために努めるというコンセプトの空間となっている。
1階の入り口に入って一番先に見えるショップは、ソンウォルタオルだ。釜山を代表する企業の一つで、高級タオルとバス用品などを販売している。釜山のシンボルの装飾が施されたミニタオルや釜山の旅の記念となるお土産なども魅力的だ。釜山式プレミアム乾物ブランド「人魚アジメ(おばさん)」、地元の伝統酒のキュレーション空間「釜山酒党」。クリエーターのアートポスターを販売する「コラムニスト」、韓国の伝統文化や工芸品をモダンに解釈し直したライフスタイルブランド「粋プロジェクト」なども注目に値する。
2階には、ギャラリーと革の生地ブランド「WSL」がある。「WSL」は様々な革製品を見物することができると同時に、カフェとしても運営されている。3階まで階段を上っていくと、そこはルーフトップになっている。気持ちの良い日差しが照らすところには、センスの良い椅子が置かれている。周辺の風景を鑑賞しながら憩いの時間を過ごすのにぴったりの場所だ。